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山口地方裁判所岩国支部 平成2年(ワ)88号 判決

原告

櫨村正則

ほか一名

被告

藤川運輸株式会社

ほか一名

主文

一  被告らは連帯して、原告櫨村正則に対し、金一六九九万七五七五円、同櫨村敏子に対し、金一六〇九万七五七五円及びこれらに対する昭和六三年一〇月二七日から各支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを八分し、その五を原告らの、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは各自、原告櫨村正則に対し、金四六一五万六〇三〇円、同櫨村敏子に対し、金四四七三万七九五〇円及びこれらに対する昭和六三年一〇月二七日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を各支払え。

第二事案の概要

本件は、被告藤川運輸株式会社(以下「被告会社」という。)の使用者被告荒田紀幸(以下「被告荒田」という。)運転にかかる大型貨物車(以下「加害車」という。)が原告らの子である櫨村敏彦(以下「敏彦」という。)運転の普通貨物車(以下「被害車」という。)に正面衝突して死亡させた事故につき、原告らが加害車の運転者被告荒田に対し民法七〇九条に基づき、被告荒田の使用者で、かつ、加害車の運行供用者である被告会社に対し民法七一五条又は自賠法三条に基づき損害賠償を請求した事案である。

一  争いのない事実

1  (事故の発生)

敏彦は、左記の交通事故(以下「本件事故」という。)により死亡した。

(一) 日時 昭和六三年一〇月二七日午前三時三六分ころ

(二) 場所 山口県熊毛郡熊毛町大字樋口一三二〇番地の一ドライブイン「大扇」先国道二号線

(三) 加害運転手 被告荒田

(四) 被害者 敏彦

(五) 事故態様 敏彦が被害車を運転して国道二号線を徳山市方面から岩国市方面に向けて時速約五〇キロメートルで進行していたところ、対向車線を徳山市方面に向けて時速約六五キロメートルで走行してきた被告荒田運転の加害車が突如中央線を越えて自車線に進入してきたので、敏彦はこれを避けようとしたが間に合わず正面衝突した結果、頭部複雑骨折の傷害を負い、即時同所において死亡した。

2  (被告らの責任原因)

(一) 被告荒田は、制限速度を遵守し、かつ、前方を注視して安全に走行すべき注意義務があるのにこれを怠り、制限速度を一五キロメートルも超過する時速六五キロメートルで走行したうえ、前方を注視せず(居眠り運転と推認される。)、対向車線に進入して被害車に自車を激突させた過失により本件事故を起こしたものである。

(二) 被告会社は、被告荒田を事業のため使用していたところ、被告荒田は、その事業執行の際に前記過失により本件事故を起こしたものであり、また、被告会社は加害車を自己のため運行の用に供していたものである。

3  (損害の一部填補)

原告らは、本件事故の労災認定に基づき、平成元年一〇月二三日労災保険より金三九九万四〇〇〇円の支払いを受けたほか、同年一一月一三日自賠責保険より金二五〇一万三〇五〇円の支払いを受けた。

二  争点

被告らは損害額を争う。

第三争点に対する判断

一  損害額(請求額九〇八九万三九八〇円)

1  逸失利益 三九二〇万二二〇〇円

(一) 証拠(甲一、二の1ないし4、三ないし一四、一九ないし二二、二四ないし三五、証人柳井一夫、原告櫨村正則、同櫨村敏子、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

(1) 敏彦は、本件事故当時満二五歳(昭和三八年二月一〇日生)の健康な独身男子で、昭和六一年三月広島工業大学電子工学科を卒業し、同年四月株式会社システムサンワールドに入社した。

(2) システムサンワールドは、昭和五六年一一月本店を山口県岩国市に置き資本金九〇〇万円(現在は六三〇〇万円)で設立された会社で、日本電気系列の販売代理店として、コンピユータ関連機器の販売、ソフトウエアの開発、販売等を行つているが、現在はいわゆるシステムインテグレーシヨンサービスの展開に力を入れており、取引先には官公庁や大手企業が多い。

なお、システムサンワールドの関連会社として、昭和五九年一二月に資本金五〇〇万円で設立された株式会社サンワールド、昭和六〇年一〇月に資本金六〇〇万円で設立された株式会社技術センター中国等があり、これら関連会社をサンワールドグループと称している。従業員数は、グループ全体で昭和六一年当時三〇名弱(役員を除く。)、平成三年で約八五名(役員を含む。)である。

(3) システムサンワールドの経営状態を示す正確な資料は存しないが、甲二八によれば、システムサンワールドの会社案内には、売上高について昭和五七年度三億〇四〇〇万円、昭和五八年度五億一五〇〇万円、昭和五九年度七億〇二〇〇万円と記載されており、甲二四によれば、システムサンワールド株式公開計画の参考資料には、平成元年九月期決算で売上高一九億三五〇〇万円、経常利益三七〇〇万円、税引利益一四〇〇万円と記載されており、売上高は順調に伸びていることが窺えるものの、近年円高不況の影響を受けて経営状態が悪化し、給与の昇給停止、賞与の減額等に踏み切らざるを得なくなる等苦境に陥つた時期もあつた。しかし、現在では危機を乗り切つて回復基調にあり、資金力の不足を補うためいわゆるベンチヤーキヤピタルの日本合同フアイナンスの支援を受けて一九九七年ころに株式を公開することを目標としている。

(4) システムサンワールドの賃金体系は、大別して基本給、職務給、手当からなつており、給与基準表が作成されている。

なお、現在は、サンワールドグループのシステムサンワールド、サンワールド、技術センター中国の賃金体系は別々となつているが、同じグループ内の企業であり、若干の違いはあつてもそれ程大きな違いはない。

(5) 敏彦は、システムサンワールドに入社後、サンワールドに移籍し、いわゆるフアクトリーオートメーシヨンの分野の仕事に従事し、将来を嘱望されていた。

敏彦の昭和六二年の年収は、二一二万二四四〇円であり、昭和六三年の年収(予想額)は、昭和六三年一〇月に死亡するまでの支給実績及び同期入社の社員の給与を参考に計算すると、二三三万八〇〇〇円となる。平成元年分については、具体的資料は証拠として提出されていないが、システムサンワールドが同期入社の社員の支給実績を参考にして推定した敏彦の年収は、三二八万〇四〇〇円(給与・手当等二三九万〇四〇〇円、賞与八九万円)である。また、平成二年分については、昭和六一年三月敏彦と同じ広島工業大学電子工学科を卒業してシステムサンワールドに入社した浦田隆之及び米田光成の平成二年の収入(両名とも技術センター中国から支給されている。)をみると、浦田の年収は三八八万九三〇〇円(給与・手当等二六六万四三〇〇円、賞与一二二万五〇〇〇円、但し、手当の中には、住宅手当と扶養手当の合計七万五〇〇〇円が含まれている。)であり、米田の年収は三七三万二〇五〇円(給与・手当等二五九万二〇五〇円、賞与一一四万円)である。

(二) 以上認定の事実によれば、システムサンワールド及びその関連会社には給与基準表が存在し、敏彦と同学歴で同期入社の社員の収入をも参酌すると、少なくとも昭和六二年から平成二年までの間は、給与、賞与とも上昇していること、今後の見通しについては、システムサンワールドは設立後一〇年足らずの企業であり、円高不況の影響を受けたことにより給与の昇給停止、賞与の減額等を行わざるを得なかつた程経営が悪化した時期があり、必ずしも経営基盤が安定しているとはいい難い面があることは否定できないものの、その後回復基調にあつて売上高も伸びているうえ、弱点である資金力の不足についてもベンチヤーキヤピタルの支援を受けて株式公開を目指すなどしており、技術力も高いこと、さらに、情報産業は成長産業であること(甲七七)をも併せ考えると、今後の成長は十分見込めること、そして、敏彦は優秀な社員として社内で将来を嘱望されていたこと等を総合勘案すると、敏彦が生存していたならば将来昇給等による所得の増加を得たであろうことが推定できるというべきである。

もつとも、前記認定のような年収の大幅な上昇は、会社の経営状態が悪化し、昇給停止や賞与の減額等の時期があり、同業他社に比べ賃金が低水準であつたことや昨今の人手不足の折から人材確保のためなされたものであつて、右のような割合で今後も上昇していくとは常識的にみても考えられないこと、また、設立後一〇年足らずで従業員も比較的若いため参考とすべき過去の昇給実績に乏しく、昇給基準も必ずしも明らかでないこと等に照らすと、今後の昇給の回数、金額について予測することは困難であるといわざるを得ない。しかし、敏彦は、少なくとも口頭弁論終結時点で明らかになつている敏彦と同学歴、同期入社の社員二名の年収のうち金額の少ない米田の年収程度は得ていたものと推認できるところ、平成元年賃金センサス第一巻第一表、産業計、企業規模計、旧大・新大卒の二五歳から二九歳間での男子労働者の平均賃金と比較してもそれ程遜色はないこと等を勘案すると、原告主張の年収四五〇万円を基礎としても、控え目な算定方法にとどまるものというべきであり、敏彦の逸失利益の算定は右金額を基礎として行うのが相当である。

なお、甲七六によれば、システムサンワールドでは満六〇歳で定年退職になると定められているが、前記認定の敏彦の職種、資質等からすれば、再就職できることは推認するに難くないので、六七歳までの四二年間稼働し得るものと考えられ(収入についても、前記敏彦の職種、賃金センサス等を参酌すれば、年収四五〇万円を基礎として六七歳まで算定するのが相当である。)、生活費控除割合を五割とし、ライプニツツ方式により年五分の割合による中間利息を控除して同人の逸失利益の本件事故当時における現価を計算すると、次の計算式のとおり三九二〇万二二〇〇円となる。

450万円×0.5×17.4232=3920万2200円

したがつて、敏彦は被告らに対し右同額の損害賠償債権を取得したところ、甲一五によれば、原告正則は敏彦の父であり、原告敏子は敏彦の母であることが認められるから、原告らは、敏彦の死亡により右債権をその二分の一に当たる一九六〇万一一〇〇円ずつ相続により承継したものである。

2  慰謝料 二〇〇〇万円

前記の本件事故の態様、敏彦の父母である原告らは、敏彦の将来に大きな期待を寄せていたこと(原告櫨村正則、同櫨村敏子)、その他諸般の事情を総合すると、原告らの慰謝料は、相続分と固有分とを合わせて各一〇〇〇万円と認めるのが相当である。

3  葬祭費 九〇万円

弁論の全趣旨によれば、原告正則が葬儀費用を支出したことが認められるが、本件事故と相当因果関係を有する葬儀費用は九〇万円と認めるのが相当である。

4  損害の一部填補

前記のとおり、原告らは労災保険金三九九万四〇〇〇円及び自賠責保険金二五〇一万三〇五〇円を受領し、損害の一部に充当したことは、原告らにおいて自認するところであるから、右合計額二九〇〇万七〇五〇円を控除すると、残債権額は原告正則につき一五九九万七五七五円、原告敏子につき一五〇九万七五七五円となる。

5  弁護士費用 二〇〇万円

本件事案の内容等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当の損害額は、各一〇〇万円と認めるのが相当である。

6  以上の次第で、原告らの請求は、原告正則につき一六九九万七五七五円、原告敏子につき一六〇九万七五七五円及び右各金員に対する不法行為の日である昭和六三年一〇月二七日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由がある。

(裁判官 角隆博)

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